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Time Draw Studio Tokyo

2022.04.05

05
Apr / Time Drawers

神は、瞬間に宿る。

3歳の時にゴジラを観た瞬間、自分の運命が決まったとしたら、それは残酷なことなのか。もしくは、幸運なのか。間違いなく、岡村さんは後者だろう。そして、何よりも幸運なことは、その幸運を継続できていることだ。転校や留学、ビザ取得、コロナ禍など、さまざまな転機でも瞬間瞬間を楽しみ、どんな仕事にも没入できる瞬間を発見し、切り「撮る」クリエイティブやデザインの世界では、「神は、細部に宿る」という言葉があるが、岡村さんのインタビューを終え感じたのは、「神は、瞬間に宿る」ということだ。そして、その神とは、自己にとっての本質的価値のことなんだろう。

 

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様々なクリエイターやブランドマネージャーの、創作活動における目に見えない価値に触れる「Time Drawers(時を描く者たち)シリーズ」第2弾は、映像ディレクター岡村 裕太さんです。

ある飲食店のコンセプトムービーを検討していた際に、たまたまコロナ禍のためLAから帰国していた岡村さんをパートナー様にご紹介いただいたことをきっかけに、THIRDのオウンドメディアのYoutubeや、クライアント様のコンセプト / モーショングラフィックムービーなどで継続的にお付き合いをさせていただいております。

今回のインタビューでは、岡村さんがTime DrawerとしてどのようなWHY(理念)、HOW(こだわり)、WHAT(アウトプット)があるかを、オンラインで伺わせていただきました。

 

 

ご経歴

 

1988年山口県生まれ。2007年に渡米。2012年南カリフォルニア大学映画学部制作学科卒業。ラパノックインディペンデント映画祭、アジアン・オン・フィルムアワードなど、国内外の様々な賞を受賞。東京とロサンゼルスを拠点に活動する。

2011年、短編映画「ロストサムライ」(The Lost Samurai)が、ラパノックインディペンデント映画祭(Rappahannock Independent Film Festival 2011)で審査員賞受賞。他にもブレインウォッシュ映画祭で最優秀短編賞を受賞した。2作目の短編映画「ウェイキング・アップ」(Waking Up)はアジアン・オン・フィルム・アワード (Asian on Film Award 2013)で日本人初の作品賞と監督賞を受賞。その他、ロサンゼルス日本映画祭 (Japan Film Festival Los Angeles 2011)では最優秀短編賞を、ハッチエクスペリエンスでは2度のグランドブレイカーに選出され、国内外の賞を受賞。

2015年にJAL協賛の企画「Peace on Earth」で、GPSアーティストのYASSANと世界22カ国を旅し、現地の人々と世界最大のGPSアートを制作。その映像を記録。2016年、2014年に過激派組織ISによるコバニ包囲戦と、その被害を受けて難民キャンプで生活をするクルド人家族を写した長編ドキュメンタリー「レジスタンス・イズ・ライフ」(Resistance is Life, アポ・W・バジディ監督作)を編集する。この作品は13の国際映画祭で作品賞と観客賞を受賞した。2017年は、ハリウッド俳優オマー・ミラー氏出演の「アドバンテージ・オマー」を制作する。テニス世界大会を訪ね、パリ、ロンドン、ニューヨーク、アメリカ各地で2シーズン制作。2018年の国際アカデミーWebテレビジョン・アワードでノミネートされる。

 

生い立ちご紹介

 

少し特徴的な生い立ちをご紹介すると、岡村さんは山口出身で、転勤族のご家庭の事情から転校を繰り返し、小学5年の頃に出身地に戻り、高校卒業までを過ごしたようです。3歳の時に観た映画「ゴジラ」の影響と、恐竜やゴジラの絵を描き始め、小中高と一貫して映画を観ること、撮ること、そして絵を描くことは大好きだったとのこと。

 

渡米のきっかけ

 

幼少期よりハリウッド映画が大好きで、高校にあまり行かずに映画ばかり観ていた、岡村少年。ハリウッド映画監督になりたい、世界中の観客を動かす娯楽性かつ芸術性も高い作品が作りたいと自然に思うようになっていました。日本の大学受験に失敗し、進路に困っていたところ、留学を支援している東京の学校をお母様が見つけてくれ留学を考え始めたとのこと。当時、アメリカに拠点を移す日本の映画監督(北村監督、紀里谷監督)が増え、自分にもできるのではと思ったそうです。(ご本人的には立派な勘違いだったと思っているようですが笑) そうして、留学支援の学校で英語を1年勉強し、無事留学に至ったそうです。

そうして、まずは日本でいう短大のサンタモニカカレッジへ留学。英語学校(NIC International College in Japan)のOBであるYoda(依田)さんというメンターと出会い、より本場の映像のお仕事や、ジョージ・ルーカス監督などを輩出した南カリフォルニア大学映画学部という名門校があることを知り、その後、見事進学し卒業されています。

こうして生い立ちを振り返った時、本当に岡村さんの人生は直感や感性ファーストで決まっているんだという印象を受けました。ゴジラも、留学も、名門校への進学も、その瞬間瞬間の感情のたかぶりを大切に、人生の選択をしてきたんだなと。

 

 

WHY(理念)

 

岡村さんがアウトプットする上で大切にしているWHY(理念)を尋ねたところ、悩んだ上で強いて一言でいうと「その作品の中に入り込む事」でした。あえてそう表現してくれました技術、方法論はあるが、スキルや経験を持っていても、気持ちが入っていいなければ力は発揮されない。逆にいえば、入り込んでいればスキル以上の価値を創り出すことができるという。

少年時代からの絵画や映画編集、留学で没入できた時の成功体験、逆にのめり込んでないもので結果を出すことの難しさを経験してきたからこそ言える、岡村さんだからこそたどり着いたクリエイティビティに対する一つのWHY(理念)なのかもしれません。

 

 

HOW(こだわり)

 

では、いかにして「その作品にのめり込む」のか。それが岡村さんにとってのHOWになります。HOWといえば前述のようなした演出、撮影、編集のような「方法」論を聞けるのかと思いきや、HOWで重要なのは、「自分の価値観を持つ」ことでした。つまり、自分の価値観をその作品に対して持つことで、没入を助長するということ。自分の価値観を持つ、それは、自分なりにコンセプトを立てるという意味合いにも近かったと思います。全然知らない、今まで触れてこなかったようなテーマやジャンルの撮影があった場合でも、クライアントや依頼者の価値観のみで制作に臨めば、入り込むことはできないし、クリエイティブな作品は作りづらく、品質もあげづらいと。もう少し踏み込めば、自分がのめりこめるような「企画」を自発的に、主体的にアウトプットするということが、岡村さんの目的を達成するために重要なHOWなのかもしれません。

 

 

コンセプトや企画が決まったら、あとはそこからより具体的なHOWである、方法論になっていきます。岡村さんが大切にしている方法論を下記でご紹介します。

 

1:創りたい部分から創る

コンセプトは抽象的なもの。まずは音楽なのか、一番強く頭にイメージされたシーンをスケッチするのか、主役に言わせたい何気ないセリフなのか。イントロから始めていくのではなく、没入から目が覚めないように、柔軟に創りたいとインスピレーションで身体が勝手に動き出す場所から、ラフにあえて余白を持たせて創っていく。

 

2:プロトタイピング

1でアウトプットしたラフスケッチやアイディアを、一旦並べてみたり、シャッフルしてみたり、そして、ある程度流れが見えたら、サンプルのBGMとラフスケッチの絵コンテや、知り合いに簡単に演じてもらうなどして「動画コンテ」を作成し、コマ割り、尺などを詰めていくプロトタイピングを繰り返します。

 

3:理と情のバランスを踏まえた撮影

絵コンテで作り上げたイメージをより具体化するために、構図にこだわり、レイアウトや余白、ズレなど細部に合理性を持たせる。また、撮影時にコンテで予定しているカット同志の繋がりをイメージしながら素材を撮り集めていく。これらは、まさに理にかなった撮影をしていく部分。ここまでを聞くと、カチカチっと合理的に淡々とコンテ通り撮影していくように感じる。しかし、演者さんの演技についてはとても情緒的なアプローチだった。例えば泣いてほしいシーンでも「泣いてください」とは演技指導しない。「あなたにとって大切な人とどうしてもお別れしなければいけなくなった時を思い浮かべてください」と、求めている結果に至るまでの状況や対象を共同で創り出すことを心がけという。一緒に自然の中でロケ撮影をしたからそう感じるのかもしれないが、もしかすると、岡村さんは人や自然、動物などの本質的で不規則でコントロールできな部分を逃したくないからこそ、それ以外の自分でコントロールできる部分は合理的にカチッとこだわるのかもしれない。真っ白のキャンバスには、自由に、直感的に描きたいが、その美しさをより際立たせるために、精巧に額縁でフレーミングする。そんなイメージを抱きました。

 

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WHAT(アウトプット)

 

こうしたHOWから生み出されたWHAT(アウトプットや実績)をご紹介します。

 

Regrit Partners 求人映像

概要

株式会社Regrit Partnersの求人映像として株式会社THIRDと共同で制作。伊豆大島で撮影。

 

 

科学から空想へ

概要

2023年から始まるSONYによる宇宙事業プロジェクト「STAR SPHERE」の映像。

 

Advantage Omar

概要

「テレビ局でYoutube番組を作ろう」をコンセプトに、俳優のオマー・ミラーさんと世界のテニス大会を回る。シーズン1ではテニス世界大会が開催されるパリ、ロンドン、ニューヨークを、シーズン2ではシカゴ、マイアミ、チャールストン、パルムスプリングを舞台にする。

 

レジスタンス・イズ・ライフ

概要

2016年、アポ・W・バジディ氏が監督した長編ドキュメンタリー「レジスタンス・イズ・ライフ」。2014年にISの攻撃により約20万人のクルド人が移動を余儀なくされ、トルコの難民キャンプで暮らす8歳の少女と家族を写したドキュメンタリー

 

 

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あとがき

 

いかがでしたでしょうか?実は編集している私も、高卒でアメリカへ留学をし岡村さんと同じような海外移住経験をしていますが、決定的に違うのは、3才の時に自分の仕事を決定づけるような稲妻に打たれているという事でしょうか。私の場合は、目標や夢がないからせめて英語や海外での体験をという目的でしたので、自分の確固たる軸がある上での、人生の取捨選択はとても興味深いものがありました。

クリエイティブのWHYやHOWでは、弊社アートディレクター高田とも共通するWHYやHOWの部分が多く、また、Time Drawers第一回の瀬戸山さんとは、小学校の時転校が多かった事など、THIRDに関係するクリエイターの皆様の共通点も垣間見え本当に有益で楽しいインタビューとなりました。

岡村さんの経歴や時の描き方を取材し、やはり、クリエイティブやデザイン、アートというのは、目に見えない人間の本質的な価値を自分なりの視点で捉え、それを表現することなんだと再確認できました。瞬間瞬間に隠れた、自分の内や外に在る「本質的価値」こそ、自分にとっての神様のような普遍的で絶対的な存在であり、日々の目まぐるしい生活や社会の中で忘れそうになる私たちに、彼らクリエイターはその大切な存在を創造力を持って再確認してくれる、「涙」のような、神秘的で尊い存在なのだなと。

 


岡村 裕太 Yuta Okamura

HP:https://www.yutaokamura.com/

Mail:yutaokamura@me.com